硫酸技術   by T.Ono
 硫酸概論−2
 
原料
硫酸の原料としては下記があります。 すべて、プロセスの第一段階としてSO2を製造します。

1.単体硫黄(回収硫黄)
石油の脱硫時、いわゆるクラウス法にて回収される高純度(99.9%以上)の硫黄で、日本では硫酸生産量の20%前後を占めています。 (世界ではほぼ60%) 通常液体(加熱溶融状態)で輸送、供給されます。
純度が非常に高いため、燃焼炉での燃焼後、ガスの精製装置が不要であり、ボイラで熱回収した後は高温のまま転化器にガスが供給されます。 このため、エネルギー回収では最も高い回収率となります。

  S + O2 → SO2

地下の背斜構造に蓄えられた硫黄層に、過熱蒸気を吹き込んで溶融し、くみ上げる方法で生産されるものはフラッシュ硫黄と呼ばれ、かっては米国のメキシコ湾岸一帯で生産されていましたが、現在はポーランドとメキシコのみで生産されています。
かって日本でも一時使用されたことがありましたが、砂や脂分を含みますので、燃焼前にろ過して不純物を除く必要があります。 不純物による設備の閉塞や腐食のトラブルが多く、使いづらいものです。

輸送の目的で、回収(溶融)硫黄を冷却してフレーク状にしたものも東南アジアその他では使用されています。 燃焼の前に溶融する必要があり、かつ輸送中の不純物を除去するためにろ過器が必要になります。
硫黄を取り扱う日本の大手商社は、皆大型の専用船を持っていますので、海外においても、固形化せず溶融硫黄のまま使用することをお勧めします。

転化器入口ガス中のSO2濃度は10.5〜11.5%と高くすることが可能です。

2.精錬排ガス(銅、亜鉛、鉛、ニッケルなどの硫化鉱の焙焼ガス)
銅などの鉱石は、ほとんどが硫化物なので、精錬の第一段階として焙焼して硫黄をSO2の形で分離します。

黄銅鉱が原料の場合:
 4CuFeS2 + 9O2 → 2Cu2S + 2Fe2O3 + 6SO2(熔錬炉にて)
 Cu2S + O2 → 2Cu + SO2 (転炉にて)

このSO2を原料とする硫酸は、現在日本では最大の生産量となっており、全体の3/4を占めています。 (世界ではほぼ30%)

焙焼ガスから金属酸化物粉塵を分離するためにガス精製装置が必要です。
焙焼時に、O2の一部は金属成分と結合して酸化物となり消費されること、及びガス精製装置からの空気の吸引のため、ガス中のSO2濃度は低くなり3.5〜5%となります。 このため、設備としては同生産量の硫黄原料設備に比較して大きなものになります。

近年、銅の連続精錬法など、酸素付加空気を利用する方式が採用されており、これらの方式ではSO2濃度は従来方法よりも高くなり、硫黄燃焼式とそん色ないまでになっているようです。
又、ニッケル鉱の品位が低下し、これに伴い従来法では採算が取れなくなっているため、多量の硫酸を使用するHPAL法といった湿式精錬法の採用が増加しています。 これは、「精錬=副生硫酸の増加」という従来の常識が「精錬=硫酸使用量の増加」と逆転すること意味します。

3.硫化鉄鉱(パイライト)、磁硫鉄鉱(ピロタイト)
これらは銅鉱などに付随して産出するか、単独で産出され、火山国の日本では比較的潤沢に得られたため、かっては日本でも重要な硫酸の原料でした。 しかししかし1970年代に石油からの副生硫黄(上記1.の単体硫黄)が大量かつ安価に得られるようになった現在では、まったく使用されておりません。

理由は、回収硫黄原料に比べて下記のデメリットがあるからです。
@原料コストが大
→回収硫黄は石油の脱硫副生物であり安価。 パイライト等は、地下より掘り出すコスト、輸送コストなどがかかる。 (海外では、その設備と鉱山間の距離などで、必ずしもこういえない場合もあります)
A環境汚染を起こしやすい
→焙焼時にはSO2ガスとともに、燃えカスである焼鉱(酸化鉄)が副生します。 これは微細で飛散しやすく、一旦外部に出ると環境汚染を引き起こします。
Bメンテナンスコスト大
→上記の焼鉱は、摩耗性が大、細かく閉塞しやすく、水分を吸うと硫酸を生じて装置を腐食します。 単なる液体である硫黄に比べて、メンテナンスに費用が掛かります。
Cプラントコスト大
→硫黄燃焼式に比べて、ガス中の焼鉱を除去するためのガス精製設備が必要です。 これは多数の乾式及び湿式の集塵装置です。 又転化器前SO2濃度は7.5〜8%であり、硫黄燃焼式のSO2=10.5〜11.5%に比較して低い(つまり、ガス流量は大きい)為設備全体が大きくなります。 
また、鉱石倉庫や焼鉱倉庫も必要になり、プラントコストは硫黄燃焼式の2倍以上になります。
D副生希硫酸の処理が必要
→湿式集塵設備から、10〜20% H2SO4の希硫酸が発生します。 これは、炉で生成したSO3が起源で、避けられません。 中和して、スラッジは適正に処理する必要があります。
硫黄燃焼では、これはまったく発生しません。

しかし、中国やインド、チリでは現在でも重要な原料として使用されています。 これは、石油回収硫黄は臨海部で生産されることが多いため、輸送コストを考慮すると内陸部のパイライト・ピロタイト産地ではコストメリットがあるものと思われます。
ただ、中国においても、臨海部では硫黄の方がコストメリットがあるため及び環境問題から、パイライト原料硫酸設備は皆硫黄原料に転換しているようです。
(私の携わった中国呉渓化工総廠がそうでした)

 FeS2 + 2.5O2 → SO2 + Fe2O3

焙焼後の酸化鉄は、製鉄原料やセメント原料として使用されますが、Cuその他の不純物が多いため日本では嫌われていました。
4.排煙脱硫回収SO2
ウェルマンロード(WL)法、活性コークス(AC)法などの排煙脱硫(SO2)設備から回収されるSO2を原料とするものです。
いずれも高いSO2濃度(20〜50%)を有する一方O2濃度はゼロなので、転化器前で希釈する必要があります。
WL法では、回収されたSO2は非常にクリーンなため設備は簡単となり、受け入れたガスは直接乾燥塔にて乾燥されたのち転化器系に送られます。
AC法ではガス中に活性コークスの粉塵を含むためガス精製装置が必須です。
5.コークス炉ガス脱硫回収H2S、S
同じ「脱硫」と言っても、こちらはH2Sの脱硫です。 コークス炉ガスの精製で、H2Sの脱硫を行った場合、副生したサワーガス(H2S含有ガス)、含硫黄廃液などを燃焼して、H2S,SをSO2とします。 どちらも、燃焼熱を回収するために炉の後段に排熱ボイラが設置されます。 これらも燃焼ガス中に粉塵を含みますので乾燥塔の前にガス精製装置が必要です。
同伴のガスや水分が多いため、燃焼ガス中のSO2濃度は低くなりがちで、4〜5%程度です。

H2Sの場合:
  H2S + 1.5O2 → SO2 + H2O

含硫黄廃液の場合(一例):
  S + O2 → SO2
  (NH4)2SO4 + 3O2 → SO2 + 4H2O + N2
6.廃硫酸
MMA(メチルメタアクリレート)製造時などに硫酸を含んだ廃酸が多量に副生します。 これを重油などを燃焼する分解炉に投じてH2SO4を分解し、SO2とH2Oとします。
これも5.同様に、ガス精製装置が必要であり燃焼ガス中SO2濃度は低くなりがちです。
  H2SO4 → SO2 + H2O + 1/2O2
上記4.〜6.は、生産量としては大変少なく、経済的にも引き合わないことが多く、むしろ”産廃処理”として考えるべきでしょう。

7.石膏
石膏を高温で熱分解してSO2を回収します。 燃料コストが大きい為経済的に引き合わないことが多いと思われます。
かって旧ソ連や中国に実用プラントが有ったと聞いておりますが、現在も稼働しているかどうか? 定かではありません。
粘土や硅砂と石膏を混ぜてロータリーキルンで焙焼し、SO2と同時にセメントクリンカーを得る方法が、海外の文献に紹介されています。

  8CaSO4 + Al2O3・2SiO2 + 4C →
     2(3CaO・SiO2) + 2CaO・Al2O3 + 4CO2 + 8SO2
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