硫酸技術   by T.Ono
 トラブル事例-1
 
Nishinoshima volcano
硫酸設備の運転・設計時において、筆者の経験したトラブル事例を述べます。
皆さんの参考になれば。


1.SO3白煙噴出事故
2.インペラーが溶ける!
3.予期せぬ「硫黄の副生」
4.カーボン製冷却塔部品の納期
5.薬傷事故
6.「途上国」で働く
7.ガス熱交換器の高温腐食
8.酸循環配管の腐食
9.「専門家」を信じるな
10.焦るな・怒るな・諦めるな
11.お金が無いから?
12.Black out(停電)
13.「想定外」
14.蒸気漏れ検出器


1.SO3白煙噴出事故
1992年10月、長年付き合いのあるマレーシアの会社の工場長から、突然の国際電話を受けました。
Help, Ono san!
定期修理の後の再スタート時に、吸収塔の循環ポンプを止めたまま硫黄を投入・運転開始してしまい、未吸収の大量のSO3が煙突から噴出して、隣接する他社の工場(輸出用の衣料品メーカーでした)に流れ込み、多数の従業員、ほとんどは若い女性が呼吸困難で倒れ、全国ニュースの大騒動になったのだとか。 もちろん、硫酸工場は無期限の運転停止です。

         

なんで? 吸収塔循環ポンプが止まっていたら、燃焼空気ブロワーは動かないだろう? と理由を聞きましたら、「定修なのでインターロックを解除したままで、元に戻すのを忘れていた」とのこと。
聞けば単純なミスです。 しかし、その結果は深刻。
「DOE(Department of environment,環境省)から、完全な再発防止策を受け取るまでは運転再開させないと言われている、我々が対策案を出しても信用されない、君はプラントメーカーの専門家なのでDOEも納得するだろうから、すぐに来て対策案を作ってくれ」と言うのです。
部長、社長とも偶々不在でしたので、翌日対応を協議し、とにかく行ってやろうということに。
飛行機の切符が取れ次第ということで、電話の3日後に現地に赴きました。
現地で客先と協議、「大量のSOxがやってきても吸収可能なスクラバーを吸収塔後に新設する」という案を作り、PFD、Process description、Construction scheduleその他、DOE提出資料を現地で作成しました。
10日間の滞在で帰国しました。 その後の情報では、DOEは私のReportに納得して、操業再開を認めてくれたのだとか。 (今から考えますと、ずいぶんUnder the tableも使ったのでしょう)

教訓: 途上国では、安全装置であっても、外したままでスタートしてしまうこともあるので、そのつもりで。 
(とは言いましても、そこまでの対策を取りますとプラントコストが膨大になり、競争上不利になります。 ある程度は「仕方ない」と言わざるを得ないのかも。 難しいところです)

2.インペラーが溶ける!
これは、海外の硫酸工場の建設完了・運転開始当初のトラブルです。

DC/DA法なので、乾燥塔、中間吸収塔、最終吸収塔と、塔が3基ならんでいるのですが、その内乾燥塔と第1吸収塔、特に乾燥塔のポンプのインペラーが、ほぼ45日できれいに溶けてなくなってしまうのです。
メーカーは日本でも老舗のケミカルポンプメーカーであり、特に硫酸用の循環ポンプでは日本一の実績を誇っている会社です。 使われていたインペラーの材質は、メーカーがわざわざ「硫酸設備循環ポンプ用」として開発されたものであり、すでに国内外の大型設備で2年以上使われているとのこと。
とはいえ、とにかく予備品を送り、それがまた溶けて無くなり、次を送り…を繰り返しながら、メーカーのラボで念のためポンプインペラー用材料の耐食試験を行いました。
結果はー問題なし。 メーカーは「この客特有の特殊な事情があるのでは?」と申します。
ふと思い立ち、「2年以上実績がある」という他社の運転条件を教えてもらいましたところ、いずれも、銅精錬の排ガスが原料でした。 しかし、トラブルを起こしているプラントの原料は、石油からの回収溶融硫黄です。
「硫酸がきれいすぎるのでは?」
「そんなことありません、国内P社にも同じポンプを納めたばかりです」
P社は、私の会社と関係が有り、担当技術者もよく知っています。 電話して事情を話しましたところ「そういえば最近、ポンプ用モーターの電流値が下がっているので、近く臨時停止してチェックする予定です」 といいます。
当の開放日に訪問し、インペラーを見せてもらいましたところ、腐食して穴だらけ、向こうが透けて見える状態。
「危なかったね!」

メーカーの営業担当者、原料の違いが原因と、やっと認めました。
硫黄が原料の場合、製品硫酸は非常にきれいで、精製硫酸の規格に合格するほどです。 ステンレス系の合金では、硫酸中の酸化性イオンにより表面に不導体膜が生成されることにより耐食性が付与されると考えられますが、きれいな(不純物の極めて少ない)硫酸ではこの不導体膜が生成されないと考えられます。 (製錬ガス硫酸は、微量の粉じんや電気集塵極で発生するNOxが酸化性イオンとなると考えられます)

トラブルは、頻繁な予備インペラーの交換に供給が追いつかなくなったメーカーが、「希硫酸用」のインペラーを「一時しのぎ」のつもりで供給したところ、これが長持ちすることが分かり、やっと解決しました。 怪我の功名でした。

教訓:
1.「他社の例」は、硫酸の腐食については必ずしも当てはまらない。
2.「きれいな硫酸」は、ステンレス系材料には腐食性を示す。
「トラブル事例―2」
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