硫酸技術   by T.Ono
 トラブル事例-3
 
6.「途上国」で働く
国内だけでなく、海外の「発展途上国」で働いてきました。
元気に仕事を達成する秘訣は? →「忍耐」です。 決して怒ってはいけない。 ここは日本ではないし、相手は日本人ではないのだから。 (つまり、日本の「常識」は、途上国では「非常識」なのです)
マレーシアでは、コンクリート製の硫黄ピットが、最初からヒビだらけで地下水が溶融硫黄に侵入してきました。 硫黄の温度は150℃もありますから、当然水は沸騰し、蒸気になる。 「温泉だね、まるで」と笑っていました。
「風邪を引いたセメント」=吸湿して凝固の悪くなった不良品のセメントを使用しているせいです。 品質よりコストを重視する。 安いものしか準備せず、後は「現場が何とかしろ」と。
腐食するのでやりたくはなかったのですが、鋼板でコンクリート層の内面をすべて覆いました。 そしたら、今度は溶接がいい加減らしく、溶接線に沿って蒸気が噴き出しています。
工事業者に文句を言いましたら、「こんなに安い契約では、とても有資格者の溶接工なんか雇えませんよ」とうそぶいています。
ということは? 無資格の素人に溶接工事をさせているんだ!
現地工事は客先の所掌です。 どうやら、客先の工事担当マネージャーが、契約金をピンハネして懐に入れているらしいのです。 でも聞きますと、マレーシアではそれは『常識の範囲』なんだとか。
この、ピンハネや賄賂の横行、途上国では共通のよう。 ナイジェリアでは、警察官や役人に渡す賄賂のことを「ダッシュ」と呼んでいました。 だらだらといつ終わるのか分からないお役所仕事も、金さえもらえばダッシュ、急加速されるという意味なんでしょうか?
インフラの整備の悪さも共通です。
ナイジェリアでは、とにかく停電が頻発して、工事もでしたが試運転は大変でした。
硫酸設備は、スタート前に転化器や燃焼炉を予熱しておく必要があるのですが、これに48時間程度かかります。 ようやく温度が上がってきたな、と喜んでいたら突然の「停電」。 転化器の温度が下がり、電気が来たところでまた昇温開始、しばらく後に又「停電!」 又温度が下がって・・・の繰り返し。
最頻発記録では、一ヶ月に35回停電。 さすがに、最後は「神頼み」の心境になりました。
「現地製」の品質の悪さ。
ボイラ用鋼管、日本のJISで言いますとSTBに相当する鋼管(インド製)を購入して温風ドライヤーを組み立てました。 完成後水圧試験を始めましたら、まだ既定圧力に達しないうちから「パン」 「パン」と縦に割れるのです! どうやら、引き抜き方向に不純物を含んでいたらしい。 急遽日本から輸入して、なんとか完成に間に合わせましたが、とんでもない赤字です。
中国では・・・と続けますときりが有りません。 忍耐力と、「何とかなるさ」という楽観、これが無くてはSurviveできませんぞ、環境だって過酷なんだし。
インドにて
7.ガス熱交換器の高温腐食
お客様からクレームが来ました。
「最近、全体の通風抵抗が増大して、ガスが思うように流れず、生産量が落ちている」
と。
調べてみますと、炭素鋼製の高温ガス熱交(転化器第1層からのガスをチューブ側に受ける)のシェル側に大きな抵抗が有ります。
定期修理時に、シェルを切り開いて見ましたら、なんと内部は酸化鉄の薄膜と、それが壊れたフレーク状の破片でぎっしり詰まっています。
薄膜は、チューブの外側に丸く何層にも重なっていて、まるで「バウムクーヘン」。 一目で、チューブが高温酸化した酸化生成物と分かりました。
確かに、転化器第1層からのガス温度は600℃ほどですので、炭素鋼は高温酸化します。 こういう酸化生成物も珍しくはありません。 しかし、量がすごい。 まだ建設後8年しかたっていません。
お客様から操業状況をお聞きしましたところ、こちらは生産計画によって停止・スタートの頻度が多く、年5回計画的に長期停止するのだとか。
それで分かりました。 長時間高温にさらされた炭素鋼の表面には、当然酸化生成物が発生します。 プラントを停止して熱交換器の温度が下がりますと、チューブの鋼製部分は収縮しますが、酸化物の部分は鋼鉄より収縮率が小さいので、表面から剥がれてしまいます。 普通、この「生成・冷却剥離」は、年1回の定修時にしか発生しないはずですが、こちらではそれが年5回、つまり標準的な設備の5倍速く発生します。 つまり、こちらの設備の8年は普通の設備の40年にあたるというわけ。
結局、チューブをすべてSUS304とした新しい熱交換器に取り替えました。 その後、私どもは、小さな設備ではガス熱交換器は最初からSUS304製とするように設計基準を変えました。
このお客様とは、熱交換器更新の費用負担を巡って一悶着ありましたが、それは省略。
8.酸循環配管の腐食
新設硫酸プラントで、乾燥塔・吸収塔の循環配管の材質として、SUS316の使用を指定されました。 客先はステンレス製造にかかわっていた会社なので、少しでもステンレスの消費に貢献したいのだとか。
ところが、操業開始早々、配管の腐食事故が頻発しました。
エルボ、チーズ、バルブの下流など、特に液に乱流を生じる場所に顕著です。
ステンレスは、常温以下であればSUS316で長期に使用が可能ですが、循環配管のように70℃を超える箇所には使用をお勧めしません。 硫酸中不純物その他の要因ごとに、長持する場合とそうでない場合が有るからです。
実はこの設備、私ではなく先輩の担当でした。 SUS316使用の理由を聞きましたら、前述のごとく客の指定だったからだとのこと。
結局配管のほとんどをテフロンライニング管に交換しました。 客からは、全部当方の責任だから金は出さない、と告げられました。
「ですが、材質を指定されたのは御社ですよ」と反論しますと、「御社は専門会社でしょう? 我々が間違っている時は、それを指摘する義務が有るはずです」との論理。
ずいぶん乱暴な論理です。 法的にはどうか知りませんが、でもなんとなくそんな気がしないでもない。
「失敗すれば双方が不幸。 専門家なら、技術面で妥協してはダメ」
という教訓にしています。
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